東北関東大震災-その2 石巻市でのボランティア

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(家屋から腐った棚を運び出すボランティア。-石巻市)

石巻市のボランティアセンター(以下VC)は、石巻市社会福祉協議会が運営し、市の北部にある石巻専修大学の敷地の中に設置されている。VCの事務所は大学の一部の教室を使用し、ボランティア参加者は広大な芝生の校庭にテントを張って寝泊まりする。

ボランティアは、ピースボートやAP BANKなどのNGO・NPOが数十人~数百人の団体で参加するものと、一人~数名の個人で参加するものとの2種類に分かれていた。参加者は平日で600人前後、休日になると1500人を超える人数が集まっているとのこと。休日は参加者が多すぎて、グループ分けや仕事を割り振るのが精一杯の状態である一方、平日はまだまだ余裕があり、平日に継続して参加してくれるボランティアがもっとも必要とされていた。参加者に女性も少なくなく、全体の2割くらいが女性のようだった。
4月24日の段階で、依頼件数は3000件以上、実際にボランティアを派遣できたのは1800件くらいだとVCの方から伺った。

ボランティア参加者は基本的にテント・食料・水を持参しなければならない。もちろん団体で参加する場合は参加者が参加費を払い、団体の運営者が食料や水を用意して炊き出しを行う場合もある。しかし個人で参加する場合は、すべて自分で用意する必要があるので、車を持っていないと荷物がかなり多くなり大変だった。石巻市内にはすでに営業を再開したスーパーやコンビニ、飲食店も数多く、車で参加する場合はそれほど多くの食料を買い込む必要はないようだ。

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(被災家屋から畳を運び出すボランティア。海水で湿った畳はかなり重く、運び出すのは重労働だ。-石巻市)

個人ボランティアは当日の朝、参加者名簿に自分の名前を書き込み、9時前くらいから当日の派遣先が順次決まっていく。場所、作業内容、必要な人数・車の数などを、まずVCの人が各派遣先ごとに読み上げ、希望する参加者が手を挙げて作業班が作られる。

次に作業班ではリーダーを決め、VCの倉庫から必要な道具を借り、班ごとに車に乗り込んで現場へと向かう。リーダーにはボランティア滞在が長い人が自然と手を挙げ、決まることが多かった。団体で参加する場合は、各団体ごとにあらかじめ班を編制して、振り分けられた作業に取りかかるので、団体経由の参加者と個人の参加者が一緒に仕事をすることはない。

作業内容は、被災家屋からの家財道具の運び出し、家屋に溜まったヘドロの除去と清掃、汚れてしまった家財道具の洗浄、道路や側溝の清掃が多く、汚れてしまった写真の洗浄などの作業もあった。津波の被害には、家屋が丸ごと流されてしまう場合から、数十センチの浸水までかなりの幅があり、被害の程度によって作業もさまざまに分かれる。

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(1m程の浸水を受けた家屋の台所。-石巻市)

被害が深刻だった地区や全壊してしまった家屋では、戦場のようにめちゃくちゃに瓦礫が積み重なった悲惨な状況で、津波の破壊力をまざまざと見せつけられることになる。しかしここでは重機が主に活躍しボランティ アの出番はない。ボランティアが活躍するのはもっと軽度の浸水家屋で、高さで言うと数十センチ~2mくらいまで浸水した地区だ。

これは実際に現地に行ってみないと想像ができなかったのだが、たった1m数十センチの浸水で家屋の1階にあるものはほとんど全て使い物にならな くなってしまう。冷蔵庫・洗濯機などの大型家電から、机や棚、畳、布団、洋服、オーディオ、本、写真、時計、カバン、ガスレンジ、米、野菜、洗剤など、とにかく生活の全てを捨てなければならない。津波は海水と一緒に多くのヘドロを市街地に運び込み、ヘドロにまみれたものは独特の異臭を放つためだ。

これを例えるなら、全壊家屋は爆撃による即死、浸水家屋は地雷による負傷。地雷によって負傷した人間は、病院に搬送され手術を受け、その後も体が不自由になり過酷なリハビリもしなければならない。地雷は直接命を奪わずとも、被害者には多くの人の助けが必要となり、結果的に周囲の生産性を大きく落としてしまう。浸水家屋の清掃・整理は人海戦術で、多くの人出が必要なのだ。

ボランティアは作業着に身を包み、ホコリを吸ってしまわないようにマスクをして、作業にとりかかる。水を吸った家財道具は通常よりかなり重量を増している。家財道具の運び出しは、引っ越し作業に似ているが、引っ越しよりも重労働かつ不衛生な環境の中で取り組まなければならない。重量物の運び出し作業は主に力のある男性が行うが、非力な女性にも、小さいガラクタの運び出しや家屋の洗浄作業などできる仕事は十分にある。

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(被災した家屋の居間。この家屋に住んでいたのは97歳でほとんど寝たきりだったおばあちゃん。津波の際はたまたま病院にいて難を逃れた。この日は仙台から娘さんが駆けつけて、ボランティアが協力し家屋の整理を行った。-石巻市)

参加者は10時過ぎくらいに現場に到着し、作業を行う。途中昼休みを挟んで作業は16時まで。家財道具の運び出しだけで一日が終わる場合もあれば、床に溜まったヘドロのかき出し、家屋の洗浄までやる場合もある。現場の水道や電気の回復状況、家屋を取り壊す場合、すぐにでも家屋に住む人がいる場合など、作業をどこまで行うかは現場によってさまざまだった。

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(家財道具を運び出した後、床にはヘドロが溜まっている。これをかき集めて土嚢に入れる作業もまた重労働だ。-石巻市)

ボランティア作業は、家財道具の運び出しなどすごくきつい労働だったり、洗浄など体力をつかわないものだったりと内容に開きがあった。雨天時は中止となり、仕事が早く終わってしまう日もある。しかし、派遣される現場は被災者の自宅や持ち家で、家族が亡くなっている場合も多いので参加者はやはり神経使う。

被災した家屋から家財道具を運び出していると、少しづつ、津波によって家族を亡くした苦しみや、思い出の詰まった家を取り壊し、大切に使っていた物を廃棄しなければならない悲しみが、どれだけのものであるかを想像するようになった。ずっと昔から大切に使っていたであろう、古びた箪笥や化粧台。額縁に入れて飾ってあったご先祖さまのモノクロ写真。少年野球のバットやサッカーボールは子供が使っていたのだろうか。そういった一つ一つを手にする度に、何気なく続いていた日常を一瞬にして奪った津波というものの恐ろしさを感じた。

明るく振る舞いながら、避難所から持ってきたお茶やおにぎりまで差し入れしてくれる被災者の方々も、作業の休憩中に津波がきた日のことや避難所での生活の様子を話してくれる時、言葉をつまらせて涙ぐんだり、一瞬表情に影を映すことが多く、聞いているだけでこちらもつらくなってしまった。

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(1日で家屋から運び出された家財道具。-石巻市)

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(係の人が各派遣先のボランティアニーズの人数を読み上げ、参加者が手を挙げて班が編成される。-石巻市)

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(ボランティアは石巻専修大学の校庭にテントを張り、宿泊する。-石巻市)

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