ISSP参加 8月2日 2日目

朝食は8時半から10時まで。ラトビアの夏時間は日本と6時間の時差だ。少し早く目が覚めたので、朝食まで1時間ほど外を散歩する。ワークショップが行なわれるのはPelci(ペルチ)という地区で、宿舎は森に囲まれた自然あふれる環境だ。朝の日差しがとても気持ちがよい。10時15分からワークショプの2日目のコースが始まる。アレッサンドラの提案で、早速撮影に出かけることに。13人の参加者が2人ずつの班に別れ、近隣の家庭に飛び込みで訪ねてポートレートを撮らせてもらう。言葉も通じない中、僕も近くのアパートに住む男性を訪ねてポートレートを撮らせてもらう。昼食後は、教室でそれぞれが撮ったポートレートをみて、みなで批評しあう。アレッサンドラは前日の夜に参加者全員のホームページをチェックしていて、それを参照してそれぞれが取り組むべき課題を伝えてくれ、今回のワークショップで撮影するテーマの方向性を話し合う。彼女はとても真剣に写真をみてくれ、感想やアドバイスをし、良い写真には目を輝かせて素直に’’Beautiful’’と言ってくれる。アレッサンドラはアルゼンチンで育った南米の人らしく、親切でゆったりとしていてとても感じの良い人だ。午後のミーティングの後は、各自が再び撮影に。僕は14時30分のバスに乗り、クルディガに撮影に出かけた。中判のフィルムカメラを持って来ていたので、クルディガの市街地の側を流れている河の周りで地元の人々のポートレートを撮る。ちなみに僕が受けたアドバイスは、もっと近づいて、リラックスしてポートレートをとりなさい、ということだった。

夕食後は参加者の作品プレゼンテーション。応募者からランダムに選ばれた写真家が自分の作品について10分ずつプレゼンテーションを行なった。夜はきょうもバーでビールを飲む。今回は南米の参加者がけっこういて、ベネズエラ、アルゼンチン、コロンビア、ウルグアイなどから。僕は昨年10ヶ月ほど南米に滞在して、南米の人が好きなので彼らとよく話した。南米の人たちの明るくて少し田舎っぽくて距離が近く、温かい性格がとても好きだ。ラトビアやロシアなど北欧圏の人々はけっこうシャイな印象。

ISSP_ラトビア_写真家03

ISSP参加 8月1日 1日目

中央駅前の広場に参加者の写真家たちが集まり、11時半前に定刻より遅れてリガを出発。クルディガまで約3時間の道のりだ。ずっと平野の中を走る。ほとんど真っすぐな道路の両側に広がるのは黄金色の小麦畑、緑の牧草地と白樺や赤松の林。ほとんど人工物はみあたらない。北海道の中でも人口が少ない道北の景色にもすこし似ている気がする。自然が美しい国だ。

14時半にクルディガ市内中心部から10キロほど離れた宿舎に到着した。ISSPの会場となるのは、森に囲まれた古城だ。その周囲にいくつか寄宿舎があり、普段は寄宿学校の学生がここで勉強しているらしい。あたりは森に囲まれ、敷地内には一面にきれいな芝生が広がり、勉強するにはこれ以上ない環境だ。受付で参加登録し、宿舎の部屋でこれから10日間お世話になる自分のベッドを選ぶ。

昼食後、15時半からオープニングセレモニーが開かれた。ワークショップを主催するスタッフたちは、ほとんどが僕と同世代に見え、そしてほとんどが女性。彼女たちがISSPの趣旨や歴史の説明をし、次に講師の紹介。そして参加者が国別に分かれて簡単な自己紹介した。参加する写真家は全部で73名。地元ラトビアが9名と最も多く、次に地理的にも近いロシアから7名と続く。その他、ドイツ、イタリア、フランスを始め西ヨーロッパからの参加者も多い。北欧や中欧の小国からも数名ずつ。南米からの参加者も数人いた。アジア系は僕も含めた日本人が4名のみだった。写真大国アメリカからは、欧州から遠いせいか1名のみの参加だったのが意外。そして参加者の年齢層も予想以上に幅広く、若い人は20歳そこそこ、上は50歳くらいまでいるようだった。セレモニーは終始なごやかな雰囲気でおわる。

オープニングの後は、ワークショップごとの初顔合わせが行なわれた。僕はマグナムのアレッサンドラ・サンギネッティのワークショップ、「Narrative Portrait」に参加した。はじめは希望が通らずに本作りのコースに振り分けられていたのだが、事務局にメールでどうしてもコースを変更してほしいとお願いし、アレッサンドラのコースに変更してもらっていた。初顔合わせでは、具体的な課題も出されず、参加者がそれぞれ自己紹介。また、なぜポートレートのコースを選んだのかを説明し、それぞれの課題は明日の朝話し合おうということになった。

夕方はみんなでバスに乗りクルディガ中心部のツアーに出かけた。ラトビアの夏の夕方の光は透き通るように柔らかく、すべてが輝いているように見える。日本の夏の夕暮れなら15分ほどしか差し込まないような柔らかな斜光が、3、4時間も続くよう。日本よりはるかにゆっくりと太陽が沈む。この時間に写真を撮れば どんなものでも美しく写りそうだ。緑の芝生や色とりどりの花で飾られた公園、平野の中をゆっくりと流れる河。クルディガは美しい町だった。

寄宿舎に帰って夕食後、夜は20時からオープニングクイズ。参加者と講師がランダムに8つの班に分けられ、写真史や写真家にまつわるクイズに臨む。クイズがあまりにも難しく、驚く。それでも30問中26問正解したグループがあり、欧州の写真家はほんとうに写真のことをよく勉強していると思う。夜は、ワークショップが行なわれる古城の玄関に、ラトビアの生ビールが2€で飲めるバーが開かれる。音楽がかかり、毎晩遅くまで踊る人も多かった。夜は23時まで明るさが残っていた。

ISSP_ラトビア_写真家

(ワークショップが行なわれる古城)

ラトビアへ

ヘルシンキからリガへ向かうプロペラ機の窓から見下ろしたバルト海は、Balt(白い)海というその名前にふさわしく、夏の北欧の透き通った光を反射して一面が白く輝いていた。地図で見るとバルト海中北部の地形は多島海になっていて、無数の小島が沿岸に浮かんでいる。はるか下方に広がる海をぼーっと眺めていると、自分の故郷、長崎県の九十九島近海の風景を思い出した。

リガの空港から外へ一歩出ると、明るくてやさしい光がすぐに差し込んでくる。18時を回っているのに日はまだまだ高く、日本の昼過ぎのような明るさだ。空の色が青い。3000メートルを越えた高地のように青が澄みきっている。こんな光と空が広がる国ならよい写真が撮れそうだ。そう期待してバスに乗りリガ市内へと向かった。車窓から見渡すリガの街は緑の芝生と街路樹、公園がいたるところで目につき、自然であふれている。これほど緑が濃い都会に今まできたことがあっただろうか。リガはラトビアの首都でれっきとした都会だが、街の中に緑があるというよりは、緑の森の中に広がった街と言ったほうがいいかもしれない。そして時おり現れる、外壁がレンガで覆われた古いビルやアパートの造りは、どこか旧共産圏の面影を残している。バスを中央駅の近くで降り、重い写真機材が入ったスーツケースを石畳の上でガタガタと引きずりながら旧市街の中を歩き、この日の宿に向かう。外はまだ明るかったが、日本とは6時間遅れの時差を調整するため、明日からはじまるワークショップへの少しの緊張感を残したまま、22時頃眠りに着いた。

_DSF3144(リガの旧市街)