三木淳賞受賞写真展『ジャシム一家』開催中

写真展『ジャシム一家』毎日18時半まで、新宿駅直結エルタワー28階の新宿Nikonサロンに在廊しています。アンコール展ということもあり、今日は展示内容について少し書こうと思います。

まずタイトルの『ジャシム一家』ですが、はじめは英語でLiving in Between とか、つけていました。そしたらRPSの後藤由美さんに、「もっとなんとか一家とか、わかりやすくてバーン!っていうやつがいいんとちゃうか?」と言われ、短くなりました。そして、『ジャシム一家』という名前は、2008年木村伊兵衛賞作の『浅田家』へのオマージュでもあります。
(写真家の浅田政志さんが授賞式で声をかけてくれて嬉しかったです)

イスラム教徒 × 移民 という固いテーマの作品でもありますが、おそらくほとんどの人が撮ったり見たことのあるのが「家族写真」。それを通して、ジャシムさんたちが日本で暮らしている様子を、コミカル、かつリアリティをもって伝えられないかと考えました。

はじめの頃は、いろんな「在日ムスリム」を撮ろうと意気込んでいました。でも2012年にジャシム一家と出会ってからは、この家族だけを撮ろうと決めました。最初の頃はバリバリ撮っていたけど、数年経つと、泊まりに行って、写真を撮っているより、一緒に買い物に行って、ご飯を食べて、喋ったりテレビをみているだけような時間が増えました。

あと、転機になったのは、2015年の夏に、東川町の奨学金でラトビアのISSPに参加させてもらったことでした。この時の講師は、マグナムのアレッサンドラ・サンギネッティ。アルゼンチンで従姉妹同士の二人の女の子を撮った「The Adventures of Guille and Belinda」が好きで、彼女のワークショップに入りました。

アレッサンドラに言われたのは、もっと肩の力を抜いて、子どもたちと遊びながら撮れば?という言葉。ISSPに参加した約2週間。80人くらいの写真家が、同じ北欧の片田舎に、同じ時間滞在したのに、あまりに多様な作品ができあがったのに驚きました。そして、「写真は自由でよい」という、大切なことを教えてもらいました。

ギャラリーでよく聞かれるのが、なんで額装とパネルを混ぜているのか?
これは、僕の立ち位置の曖昧さと、文化の間のあってないような「境界線」を表わしています。同じ日本で、同じようなレベルの生活をしている僕とジャシム一家。もちろん共感できる部分がたくさんありました。一方で、全てを理解することができないイスラムという宗教や、バングラデシュの文化。ジャシムさんたちとの付き合いは、常にその間で揺れ動いています。

フレームに納められることによって、ある種の「敬意」が生じる額装と、イメージが直接浮かび上がるパネル写真。それを混ぜることで、彼らを見ている僕の視線を再現できるのではと思いました。

また、パネルの大きさをバラバラにしたのは、L版のスナップと、ポートレートを効果的に使いたかったから。L版のスナップは、「家族写真」の定番だと思います。おそらく誰にでも記憶のある、家族や友人との記念写真。僕が撮ったのか、家族が撮ったのか、わからないような写真を、実際に部屋の壁に貼ってあるような感じで展示しています。

展示の順番は完全に時系列ではないけど、「フォトジャーナリスト」として撮り始めた自分が、だんだんジャシム一家の親戚みたいな関係になっていくように構成しています。

そして、同じ日本で暮らしているのに、時として別のレイヤーの世界に在るように感じる、彼らの生活の不思議な雰囲気を感じてもらえるように写真を選んでいます。

今回は、写真展で使わなかった写真を60枚くらい入れたポートフォリオブックや、ジャシム一家と日本のイスラム社会について書いた雑誌なども会場に置いてあるので、時間のある方はぜひ手にとってみてください。

コメントを残す

Required fields are marked *.


CAPTCHA